鋼の錬金術師 第61話『神を呑みこみし者』

怒涛の展開でございます!しかしOPをカットしても収まりきらない内容に「もったいない」と呟いたのは私だけではないはずです。
1.
スカーとブラッドレイの因縁の対決。
が、スカーは既に一族や同胞を殺された恨みだけで動いてはおりません。もちろんその気持をまだ整理しきれてはおりませんでしたが、エドたちと行動を共にするようになったり、ウィンリィと知りあったことで彼の心は変化したのですから。
今のスカーにとってブラッドレイは「目的」を阻む障害でしかありません。ただそれだけのこと。ですから戦いを回避できたのかもしれません。ブラッドレイが引いてくれたのなら、ですが。
ブラッドレイにとって、そもそもスカー自体には意味はありません。彼は特定の敵を必要とはしていなかったのですから。全てが敵の彼にとって立ちふさがるもの全て倒すだけ。それだけの意味しかありませんでした、今までは。
ですが彼の(表面上)治めてきた国は崩壊寸前で、彼自身も瀕死の状態。ここで彼は「意志」を見せます。強い敵と戦いたい、と。この瞬間ブラッドレイはホムンクルスの「ラース」から人間「ブラッドレイ」に戻ったのだと思います。
だからこそ、ブラッドレイは敗れても老化して満足して逝けたのでしょう。ホムンクルスとしてではなく人として。一方のスカーはといえば、微妙ですね。
兄の残したものを使い人々を救うことは出来たかもしれませんが、まだスカー自身の意志は見つけておりません。だからこそ、彼にはこのまま死んではいただきたくありません。彼の生き方を見つけるまでは。
作画について疎くなってしまい、今回このパートを担当したアニメーターがどなたかは存じませんが、この二人の壮絶な戦いを的確に表現していただいて感謝いたします。迫力があり実に格好良かったです。
2.
ホーエンハイム執念の結実
クセルクセスを離れてからのホーエンハイムはこの一瞬のために生きてきた訳でございますね。もちろん、彼にとってこの気の遠くなるような長い時間を孤独に彷徨った旅は「贖罪の旅」であったことは想像に難くありません。
彼の不用意な言動が彼の友やひとつの国を滅ぼしてしまったのですから、彼自身はこの旅を呪ってはいなかったでしょう。ですが、愛する妻や子供たちとも別れ、親しい友を得る事も出来ず、来るか来ないか分からなかった旅は辛かったことでしょう。
それが結実する瞬間の解放感は見事でございましたし、その後これまで反発していたエドが父の背中を押し力を合わせるシーンは、ホーエンハイムの長い旅へのご褒美のようで胸が熱くなりましたよ(笑)
このエピソードだけで一話作れますよねぇ(笑) 作者や本作スタッフの出し惜しみしない姿勢は見事と言う外はございません。
3.
エドとプライドの対決では、これまで私が見落としていた「ツケ」を払わされてしまい、そこがとても悔しかった。
と言いますのも、私に取りましてキンブリーは変態殺戮者でドSという認識しかしておりませんでした。ですからエドの体を乗っ取ろうとした時キンブリーが現れて結果的にエドを助けたシーンで、キンブリーが何故プライドの行動を制止したのか、何故エドがプライドの本体を捕まえたとき笑顔になったのか、よく分からずに終わってしまいました。
ここは、これまでのキンブリーの行動から彼の美学や生き方を良く理解していれば恐らく感動のシーンだったと思うのですが、そういう準備を怠った結果、中途半端な認識しか持てませんでした、残念すぎます。
制作者が一生懸命作ってくださっているのですから、観るこちらも「根こそぎ拾う」(@倉石)姿勢が不可欠だと改めて思い知ることができて感謝いたします。
エドがプライドを引きずり出すシーンですが、ここは決着をつけても問題なかったようにも見えました。しかし作者はあのような結末を選択しておりました。
他のホムンクルス、エンヴィーは人に憧れていた自分の心を認識し、ラースは自分の意志で戦い、そしてグリードはリンと融合することで人の可能性を知ることで「おとうさま」の楔から解き放たれることができました。
ですからプライドも「命ぜられるままに生き、死ぬ」ことを良しとしなかったからなのか、それとも「自分の意志で生きる苦労を経験しろ」という罰ゲーム(笑)なのか分かりませんが、これで彼も「おとうさま」から巣立つ時がきたという事なのだと思います。
何れに致しましても、大量に死人が出た作品の最後にああいった形で「救い」が用意されたことは清々しい気持ちになりました。一々見事なオチを用意してくださいますなぁ。
4.
力を補給するために地上に脱出した「フラスコの中の小人」ではございましたが、人から命を奪って手にした「賢者の石」の小ささに終焉の近さを見ました。
そして光を失ったマスタングではございましたが、リザに「まだ戦えるな?」と聞いた時の彼の瞳には「意志の光り」が宿っていた、と。格好良過ぎます(笑) まだ一山ありそうですが、マスタングも活躍の場が用意されているかもしれません。以下次週!