獣の奏者エリン 第29話『獣の牙』

 エリン、リランの逆鱗に触れるの巻き。
 この作品はどのエピソードを取っても表面的な事柄の奥底に普遍的なお話を含ませており、それがあるから楽しみでもあるのですが、夏場で頭の働きが衰える暑い時期には辛いところもございます(笑) こういう時期には「ボー」として観るアニメの方が適していると個人的には・・・、クーラー点けろって話なんですけどね。
 エリンが野生の獣に対して(初めて)感じた「恐怖」の正体とはなんでしょうか。長い時間を掛けて築き上げてきた信頼や絆を一瞬で崩してしまうほどの恐怖。絶対的な力の前で感じてしまう人の無力さ。「恐怖」によって押しつぶされてしまうもの。そういったものに思いを馳せたとき、恐怖(「王獣」にとって「音なし笛」は恐怖そのものでしょう)によって王獣を従えるという選択肢はエリンにはなかった、というところに繋がるお話の流れの見事さに感心いたしました。
 人が他の何ものをも「恐怖」で従わせるという理不尽さの否定というのは、エリンの住む現状の「リョザ神王国」を否定することだと思うのですが、今のエリンにはそこまで思い至ってはおりません。この先必ずこの問題に直面することになると思います。その時エリンが今回と同じ判断を下す事は想像に難くありませんが、それはすなわち生き難い選択になってしまうんでしょうねぇ。
 「恐怖」を克服しようとしたエリンの依り所が、結局長い間賭けて築いてきた「絆」だったところにもホロリとさせられます。容易く切れてしまうように見えても、時間を掛けて作り上げた信頼は決して切れてしまう事はないのだよという作者のメッセージが嬉しいエピソードでございました。