蟲師 第19話『天辺の糸』

 空の高いところで生きている蟲「天辺草(てんぺんぐさ)」に囚われた子守娘「吹(ふき)」と、彼女の雇い主の息子「清次朗」の恋のお話。絵コンテは大地丙太郎さん。
 毎回書いておりますが、蟲という異形のものを介在させながら描いているのは「人間」の心というのがこの作品の基本構造でございます。今回は「真実の愛」というお話、・・・嘘じゃないですよ(笑)
 人を好きになった時、初めは誰でも自分の心に忠実でございます。しかしその先の「結婚」という関門をくぐり抜ける時に「周囲」というものに気を取られて、本当は誰よりも見続けていなければいけない人のことを疎かにしてしまう。
 「見る」というのはこの場合相手の「心」のことなのですが、往々にして目で見えるその人の顔や仕種を基準にしてしまいます。清次朗は吹のために頑張っているのだから何故分かってくれないのだと考えてしまいます。そして蟲に取り憑かれている吹は消えてしまいます。
 見えているのに見えていない。
 なんと悲しい物語でしょう。しかしその時ギンコが呟きました。「受け入れてやれ」と。目にするものだけでなく全てを、ということなのでしょう。そして清次朗は思い出します。何故吹を好きになったのか。
 そして今回の白眉。夜空の星は強い光に照らされると見えなくなるけど、なくなる訳ではなくずっとそこにあるのだという素晴らしいシーンに繋がっておりました。この場合の光は「親や世間」もしくは「そうしたものに惑わされた清次朗自身の心」を表現しているように思えました。
 素直に、出逢った頃の心を思い出した清次朗のその後の行動はネタバレなので割愛いたしますが、余韻溢れる素敵な終り方でございました。うん、明日も頑張ろう!

(二人の心が再び繋がる事を手と視線で暗示したカット。大地さんのプロの仕事です)