獣の奏者エリン 第17話『狙われた真王』

 権力の二重構造は上手く役割分担ができているときはこの上なく良い方に回転しますが、その結びつきは些細な事で簡単に崩れてしまう、ということを示唆したお話。とても子供向けとは思えません。
 ひとつの集団を束ねるということは決して奇麗事ではなく、清濁併せ呑む覚悟が必要です。しかしその場合ひとりの権力者の双肩にすべてが圧し掛かってしまう。それが有能な者であれば市井の民は幸せに暮せるけれども、無能なもの、あるいは官僚の傀儡に容易く落ちてしまう王であればこれほど悲惨なこともありません。
 本作の「リョザ神王国」は「政治と軍事」を分離したシステムのようですが、厳密に書けば「政治」の部分の描写が不十分で「真王」と「大公」のどちらが国の政務を司っているのか分かりません。ですが今日のお話を観ていて感じたことは「大公」はあくまで「軍事部門」担当なのだろうということでございます。
 こうした中で侵略者から国を守る矢面に立たされ続けている「大公」が不満を募らせるのはある意味当然でございますが、本作ではさらに「真王」サイドにダミアという不穏分子を抱え込んでおりますから、今後の権力闘争の熾烈さは想像に難くありません。
 「大公」サイドでも兄弟の相剋のような描写もございましたし、その陰でセィミヤとシュナンの悲劇のロマンスを予想されるものも描かれておりました。そして打ち込まれた一本の矢から「リョザ神王国」の行く手に暗雲が! ・・・上手いなぁ・・・。
 今回はエリンはほとんど出番がございませんでしたが、エリンが生活している国、時代がどのようなものなのかということをきちんと提示してくれました。ですから今後エリンのお話に戻っても視聴者は今回描かれたことを常に意識することが出来る訳でございます。早すぎず、遅すぎず。このタイミングでこのエピソードを挿入したスタッフの(もしかすると原作準拠なのかもしれませんが)上手さに脱帽。構成ってこういう仕事を指すのだと思います。
 で、不満点。
 こうした作品ですから細部にも配慮が欲しいところで、今回は群集シーンが止め絵(厳密には人物だけ。背景の花ビラは動いておりましたが)だったのは残念でした。直接物語とは関係ないシーンでしたが、あそこも動いていれば「祭りに浮かれる人々」と「その陰で進行する陰謀」の対比としては完璧だったように感じただけに尚更でした。王獣の使いまわしは不問ですが(笑)
 予算か時間か、多分両方なのでしょう。誰よりもスタッフ各位の方が画竜点睛を欠いた事への無念さがあるかもしれません。