獣の奏者エリン 第9話『ハチミツとエリン』

 ジョウンに助けられたエリンの生活を描いたお話しでした。
 何気ない日常風景の中で少しずつエリンが変わって行くのだろうと予感させる作りが素晴らしい。作り物ですからソヨンの死後、エリンのそばに誰を配するのかは作者の裁量なのですが、上橋さんは厳しい人ではなく柔らかな人を選んだようです。
 傷ついた心を癒すための他に、母子家庭で育ったエリンには「父親」という存在を知りませんから父親代わりのジョウンを、というこの選択は母親が目の前で死んで行く様を見いていたエリンの「リハビリ」期間の相手としては最適という印象でございます。もちろん父親ですから時には厳しいところも見せるのでしょうが、それを含めてエリンの成長には必要なことなのでしょう。
 今のエリンに必要な人間とは? と考えますと「大きな」人間でございましょう。そして「ジョウン」というキャラが何物も包み込みそうな大らかな性格であることは観ているだけで伝わってまいります。「絵」で見せるとはこういう事だと書いておきます。
 「絵」といえばジョウンが「なめてごらん」といって回収したばかりの蜂蜜をエリンに差し出したシーンで、エリンが服で指先を拭いてから蜂蜜をすくった場面が印象に残りました。汚れた指でそのまま蜂蜜に触れないという描写なのですが(服の方が汚いというツッコミはこの際なしの方向で)、こうした細かいところにエリンの性格と申しましょうか「育ち」を表現しているようで感心いたしました。
 「作画」の方で、あの蜂はCGなんでしょうか? 実に丁寧に描かれておりました。多分エリンより丁寧じゃないかと(笑) 闘蛇のようなフィクションの生物は大雑把な描き方なのですが、実際の生き物は丁寧で好感。キャラの絵柄にも慣れ、作品世界に入り込んでまいりました。