蟲師 第11話『やまねむる』

 峠茶屋から眺めた山の異変に気がついたギンコは近くの村へ寄ると、その山に住む「ムジカ」という山の主を探して欲しいと頼まれた。見つけ出したムジカはギンコと同じ「蟲師」でありながら、今はこの山の主になっているという。村に帰ったギンコはその夜不思議な鐘の音を聴いた…というお話でした。
 己の発した一言から愛する女が仕出かした恐ろしい行為を、責めるのでもなく逃げ出すのでもなく長い時間その場に留まり主の代わりを務めてきたムジカが、何故今になってその任を辞めたくなったのかが描かれておりませんでしたから、そこは色々考えるところなのでしょう。
 「寿命」で、自分が死んだ後「後継者」にコダマに選ばれることを避けたかったということでした。体内にムグラを飼い生きる辛さを、自分が育てたコダマにさせたくはなかった。しかし後継の「主」がいなければ光脈筋の制御ができなくなり、結果村人が様々な影響を受けてしまう。それもムジカの望むところではない。だから自分をクチナワに喰わせ、それをもって「代替わり」するしかないとする結論に達したのでしょう。
「他になにかあんだろ!」
 劇中ギンコ自身が語っていたように、彼も「ひとつところに留まる」ことへの渇望がこの台詞を言わせたと考えますと、珍しくギンコが声を荒げたこのシーンの意味するところは非常に複雑な感情の発露でしょうし、そして印象的でした。飄々と生きているようで、実はそうでもなかった意外性は興味深いものがございました。
 「絵」の話は改めてする必要もございませんが、ムグラノリで見せた創造力(想像力ではございません)とスピード感、山の主の美しさ、湧きたつ光脈筋の幻想的な光の表現など、圧倒される美しさは健在でございました。