巌窟王 第二十二幕『逆襲』

 そういえばフェルナンは自分を陥れた相手が「エドモン」と知らなかったのですね。今回妻のメルセデスから知らされて全てを悟ったわけですが、一度狂った歯車はもう二度と元に戻りませんでした。フェルナンの瞳に宿った狂気の描写が見事でございました。
 伯爵の過去も(既に語られていたようなものでしたが)自身の口からアルベールに伝えられます。そして歩き出した伯爵とそれを追いかけるアルベールの間に爆弾が投下されて(この場面は橋の上のシーンでした)道が途切れアルベールは伯爵に近寄れませんでした。このシーンは二人の物理的な距離と心理的断絶、若しくは拒絶を表した良い演出でございました。
 ただ、この伯爵の絶望を描いたシーンがややあっさり観えた事も事実で、振り返りますとここに到るまでに伯爵の痛みを断片的に描いてきたことが、この一番の核心であるシーンの盛り上げにマイナスだったかもしれないと感じてしまいました。・・・「動機」自体に「意味」(魅力の方が適切かもしれません)がある物語ではないように私には見えたので、そう感じたのですが。
 長かった伯爵の旅もいよいよ終わりを向かえる段階になりました。すでに原作を大きく逸脱しておりますから、どのような結末をみせていただけるのかとても楽しみでございます。