巌窟王 第十八幕『決闘』

 しばらく静観、などと先週は書きましたが撤回いたします。ここからは私の知っている巌窟王モンテ・クリスト伯)ではなくなって(もちろん今までも色々違ってはおりますしたが、それらは想定の範囲内でございました)おりました。いや、びっくりでございました。決闘は行われてもアルベールは助かるというのが原作でございますが、確かに助かってはいるのですが、こんな形とは思ってもいませんでした。
 友情のために死ぬフランツが悲しい、その親友が死んで行く間見守るしかなかったアルベールが悲しい、といった具合で悲しさに押しつぶされそうな自分が可笑しい(笑) なかなか凝った演出で悲しさを増幅させたスタッフが憎い!の手腕に脱帽でございました。
 冒頭海にバカンスに来ている男女三人のシーンが映し出されていたのですが、はじめは「エドモン・フェルナン・メルセデス」だと思い込んでいたのですが(そのわりにメルセデスの肌の色が薄いなぁと思っていただけでした)、あれは「アルベール・フランツ・ユージェニー」でございました。ただ意識的にハッキリと描写することをしなかったのは、そう誤解してもらうことも見越した上でだったと思います。
 男女三人の幸せだった時の記憶。そしてその後に訪れる不幸を二重に意味を持たせたこのシーンがこの回の白眉でございましょう。
 伯爵ほどの男がフランツの身代わりに気が付かなかったのか? 身代わりが分かった後フランツを置いて去っていったのは何故? と些細な疑問もあるのですが、そうした感想よりもフランツの死に打ちのめされるアルベールの悲しみが素直に伝わってきた事実に感動いたしております。「脚本・有原由良」「絵コンテ・前田真宏」「演出・唐戸光博」「作監恩田尚之」ですか、やられました。