NHKBS2 春休みアニメ劇場『アニメーション制作進行 くろみちゃん』

楽しくて やがて悲しき くろみかな
内容を考えれば笑ってばかりもいられない深刻さを内包しているのですが、とにかく観ている間は可笑しさばかりが目につく楽しいアニメーションに仕上がっているのは大地監督以下スタッフの力量の成せる技なのでしょう。
何故この作品が「ゆめ太カンパニー」という制作会社が作らねばならなかったのか、大地監督が「ノーギャラ」で監督を引き受けたのかなどは少し調べてもらうと分かるのですが(「ゆめ太カンパニー」のウェブサイト内に「くろみちゃんに寄せて」という感動的な大地監督の文章がありますので、よろしかったらご一読ください)、日本のアニメ制作現場の窮状は想像以上ということです。作中四本松浜子が「1ヶ月寝ないで描いた250枚の動画の対価が4万円」という意味のことを言うのですが、本当に「やってられっか・・・」ですよね。
現場の人間が頑張れる原動力が「好きだから」という現実が悲しすぎます。安い賃金で過酷な労働というのは、業界に飛び込む前から分かっていたでしょう?というのは簡単です。しかし労働に対して正当な評価がなされない業界が存在する意味があるとは思えませんし、支える人の情熱だけが頼りというのも情けないものがあります。本来この問題を解決するために立ち上がらねばならないのは外野の我々ではなく、当事者の彼らだとは思うのですが現場の彼らにそんな時間もエネルギーも残っているのでしょうか?何か抜本的な解決案を外部の人間が考える時期に来ているのかもしれません。
・・・と、感じてしまうのは私が歳を取っている証拠ですね。大地監督もスタッフも問題提起の意識はあるとは思いますが、だからといってそんな風な見方だけでこの作品を観て欲しかった訳ではないでしょう。この作品はアニメ業界に集う若者たちの青春物語でございます。どんな業界でも仕事の「辛さ」や「悲しさ」「やりきれなさ」はあるでしょう。そして「喜び」も。この作品はそうした青春を描いた作品と観るのが正しいのかもしれません。
実際涙あり、笑いあり、私が感じたような黒い影など微塵も感じられない好作品に仕上がっておりました。日本のアニメはこうしたタフな方々が作っているのでしょうね。全てのアニメ制作現場の方々に幸多かれと願わずにはいられませんでした。