大正野球娘。 第12話(終)『土と埃にまみれます』

 晶子の魔球「沈む球」の投球ホームの癖を見抜かれて逆転を喫し、さらに美技で晶子を助けた雪まで負傷してしまい窮地に追い込まれた東邦星華桜花会!しかし彼女たちは諦めはしなかった!!
 この試合展開は誰が監督してもこれしかありませんが、これをテンプレと仰る方は野球というゲームの恐ろしさを知らないとしか申せません。事実は小説より奇なりの具体例として数々の奇跡のような試合がある野球はまさにその宝庫でございます。
 一番近い例といたしまして今夏の第91回高校野球選手権、中京大中京日本文理の決勝戦がそのひとつでございました。10対4の9回2死ランナーなしから始まった日本文理の怒涛の反撃は10対9まで迫り、最後の打球があと数十センチ左右どちらかに飛んでいれば逆転していたという壮絶なものでございました。
 ああいった試合が幾つもあるのが野球というスポーツでございますので、桜花会の反撃なぞ珍しいものではございません。むしろ「ありえねー」と言われる位で丁度良い(笑)・・・しかし現実の試合の方がドラマチックというのも創作者泣かせですよねぇ。
 雪が負傷して放棄試合寸前のところで野球への想いを語るシーンを挿み、動機に違いはあるけれどこの試合に賭けた想いに違いはない、「この試合は晶子一人のものではない」ことをもう一度提示。良い演出でございます。
 そしてそこからテーマソングに乗せて各人の活躍(鏡子のダイビングキャッチに泣かされ、雪・環のバックトスに驚嘆させられ、小梅のブロックでんぐり返しのコンボに大笑いさせられ)を描き、クライマックスに巴の「こてつ」再登場(笑) お見事!と書く他はございません。
 試合には敗れましたが晶子は岩崎くんと和解できたようですし、なにより真の勝利者は良き伴侶(?)を手に入れた小梅というオチにも拍手を送りたいと思います。
 さて、野球アニメとしては見事な演出でございましたし最後のカタルシスへ向けての構成も見事ではございましたが、では大正時代という時代設定が生かされていたかというと少々疑問も残ります。が、この少女たちの言動自体が既に絶滅しておりますし(イメージです)、現代でこのストーリーを語ろうとすれば(恐らく)全く違う作品に仕上がってしまうでしょうからこれは良い選択だったのかもしれません。
 次に公式サイトのキャラ設定を眺めておりますと菊坂胡蝶のところは

おとなしくて引っ込み思案。寮で、鏡子と同室。鏡子と同じく巴のカッコ良さに憧れているが、鏡子の手前、あまり表に出さない。母親が芸者で、ほとんど不在であるため、家庭のぬくもりに縁が無い。そのため、家族仲の良い小梅にも憧れている。(公式サイト内・登場人物「菊坂胡蝶」より抜粋)

と記述されており、他のキャラにもそれぞれ魅力的な設定があるのですが、残念な事に本編でそれらが語られることはあまりございませんでした。この物語の発端である晶子のエピソードも同様で、岩崎の何に激怒し、何故その報復が野球だったのかが僅かな描写で止まっていたことも不満といえば不満・・・かな?
 もっとも「尺ありき」でスタートしたであろうアニメである以上、何を切り何を描くかは監督の裁量でしょうし、少なくとも池端隆史監督は真っ当な娯楽作品に仕上げてくれましたので感謝こそすれ非難するつもりは全くございません。
 それにたとえ2クールの尺があり、各キャラの描きこみを今以上にできたとしらこのテンポの良い作品に仕上がったかと考えますと・・・、多分池端監督なら何とかしたな(笑) うん、たったこれだけの話数でも最低限のツボは押さえた作品に仕上げてくれた監督さんだもの。
 誰よりも「あれもやりたかった、これも描きたかった」と思っているのは監督さん本人でしょうから。池端監督の次回作にも期待したいと考えながら
おじゃんにしたいと思います。