獣の奏者エリン 第32話『大罪』

 霧の民ナソンによって語られる「奏者の技」が引き起こした悲劇の顛末をエリンが知る事になったエピソードでございました。
 悲劇の直接の加害者(?)は「獣たち」なのですが、本当の原因は「人間の愚かな心」であり、人は自分たちの作り出したものによって滅ぶ、あるいは自然を制御することなど出来はしないという普遍的かつ教育的なお話でございました。
 「血」によって目覚めて狂ってしまう獣たちの描写が恐ろしく、哀しい。そしてそれを利用しようとした人の末路はもっと哀しい。彼らはただ今よりももう少しマシな暮らしを望んだだけなのに結果的に全てを失ってしまいます。
 その事自体が悪い事とは思えません。それが悪い事と言うのなら、現実の私たちが快適な暮らしをを追求してここまで来たことを否定する事になってしまうからです。で、ここから現代批判もできるのですが、本作はそれをしたい訳ではないでしょうから私も自重(笑) ・・・ですがとても重い内容を含んだお話でございました。
 ここでナソンが語って聞かせたということはこの悲劇は繰り返されることになるのでしょうねぇ。それは取りも直さず人の愚かさに対する作者の冷徹な目なのだと思いました。
 今回一番驚いたのは、アケ村の闘蛇が病死した原因がソヨンにあったと語られたことでしょうか。「掟」のために闘蛇の間引きをした、と。あの回を観た時「あれ、闘蛇が死んだ原因の追究は?」ですとか、「ソヨンは何故釈明もせず処刑されたのか?」と感じたものでしたし、無実の罪でも掟のためには死ぬしかなかった(それが「村社会」を運営するために必要な秩序だから)のかと考えたものでしたが、原因がソヨンとなりますと考え方が変わっちゃうんだよなぁ(笑) もう少し早い段階で描くか、あのまま真相をぼかしておいて欲しかったです。
 さて、リランを飛ばすなと忠告を受けたエリンでしたが、それは彼女に今までの生き方を変えろと言っているのに等しい訳ですから、これから彼女は葛藤することになるでしょうし、「兵器」としての王獣や闘蛇の運命を示唆された訳ですね。
 その中で彼女はどう行動するのかが今後の焦点ですが、霧の民とワジャク両方の血を引き、ホロンのジョウンに育てられたエリンだからこそ選択できるものがあると信じます。こうなるとエリンがそれぞれの階層と繋がっている(そういう配置にしていた)という事が重要になってくるのでしょうが、創作者の構成力って凄いなぁと改めて感心させられました。