獣の奏者エリン 第22話『竪琴の響き』

 大切な竪琴を改造して過去に戻れないことを暗示し、しかしエリンは過去よりも今、そして未来を見ているのだということを見せる演出が冴えたお話でした。
 言葉の意味としては同じなのですが、今回のお話のように常に目の前の事に全力で取り組むエリンを観ていて「一所懸命」という熟語を思い出しました。全力過ぎて周りに目が向かなくなってしまうのが欠点と言えるのですが、それもエリンの「個性」でございます。
 そうした彼女だから周囲の人間も協力を惜しまない、という描写が気持ち良いです。トムラくん、良い奴で安心しました(笑) 定石としては「嫌な奴」を出してエリンに一試練あっても不思議ではないところなのですが、「そんなくだらない事をするような人間を描く気はございません」という作者とスタッフの矜持のようなものを感じました。うん、短い人生そんな愚か者に関っている暇はないのですよ。
 そして懸命に生きるエリンの周りには「道を説く君」が現れるという「ご褒美」もありまして、今回はイアルだったわけですが、この「迷うな」とい台詞はエリンと自分に向けられていて、しかも今後に繋がるのだろう示唆に富んだ台詞・・・、なんでしょう(笑) 
 本作において「導師」の助言が必要最低限、と申しますか「背中を押す」程度に描かれているのもまた好感が持てます。誰かに指し示された道を歩くのではなく、自分で考えた道を歩く。その生き方を見守っている人々が折々に「助言」を与える。理想的過ぎるという批判もあろうかと想像いたしますが、私は「王道」とはこうしたものかと思っておりますので全く問題はございません!
 どうしてもエリンに目が向きますが、「リョザ神王国」の内部問題も危険水域まで来ているようでイアルの前途もかなり危ないようです。でもこの問題分かる、と言うか実に身近な問題でございます。自分では手を汚さず繁栄を享受しながら、汚れ仕事で生死を賭けて国を守っている「大公領」の人々を差別していたら、そりゃあ怒りや憎しみを抱いても不思議はございませんよね。
 内憂外患とはまさにこのことで、その意味では真王陛下が指導力を発揮しなければならないのでしょうが、実はこれも難しい問題を抱えていたりします。「王」が「君臨すれど統治せず」状態こそが一番安定する形態だと考えておりますが、真王と大公が共に政治力を発揮すれば前に書いたように「権力の二重構造」に陥ってしまいそうです。真王はそれを恐れて「積極的関与」を謹んでいるようですが、その配慮が悪い方に向かっているようで心配です。
 エリンもこの国で暮しているわけですから、この先に待つだろう動乱に巻き込まれてしまうのでしょう。
あー、心配で寝られません!