蟲師 第16話『暁の蛇』

 のんびりと春の船旅を満喫していたギンコは水夫の「カジ」から母親「さよ」の「記憶」にまつわる異変の相談を受けて、というお話でした。
 人の記憶を喰う蟲「影魂」によって、「アクセス日時が古いもの」から記憶を失って行く「さよ」、本来とても深刻なお話なのですが、そう単純に作らないところがこの作品の良い所でございます。
 「さよ」の性格が前向きと申しましょうか、鷹揚と申しましょうか、徐々に記憶を無くしてはいても一番大事な記憶はなくしていないという自覚があるからなのでしょうか、実に逞しい(笑) それ故悲惨であるはずの物語の後味が悪くございません。
 記憶を失ったから「さよ」と「カジ」を捨て別の家庭をもった夫のことも忘れと考えますと「忘却」も悪いことばかりではございません。ですが忘れたはずの夫への「陰膳」を続ける「さよ」を見ると、単純に「良かった」とも思えない。
 正解などありえない問いに誠実に向き合うギンコと人間たち。微妙な人の「心の襞」を優しく描いたエピソードでございました。