鉄のラインバレル ♯23『死に方が決める生き方』

 TVアニメの良い所は一週間時間が空くことだと思っております。確かに「焦れったかったり」「もどかしかったり」する部分もございますが、日を置くことで冷静になれたり嫌な部分を忘れたりすることができるのですから、これは結構重要なことなのかもしれません。もっとも連続視聴することで「興奮の維持」をすることのできる作品もございますので、全ての作品に当てはまる訳ではございません。
 先週の段階では若干ついて行けない展開のように思えましたが、一週間後の現在ではそのことを忘れ(笑) 今目の前で展開する物語に釘付けでございました。こういう時「忘却」は人間に許された最大の能力のように思えてしまいます。ありがたいなぁ…(笑)
 大挙して押し寄せるセントラルのマキナに、加藤機関を中心に迎撃を開始する浩一たちだったが、多勢に無勢で次第に疲弊して行く。そしてその中で、対セントラル用最終兵器のラインバレルに血路を開くため「加藤久嵩」は散って行った。「沢渡・ユリアンヌそして同士諸君、加藤機関総司令として最後の命令を下す。理想の世界を想像し必ず実現せよ。絵美すまなかったな。早瀬浩一、道は我々が切り開こう。後は頼んだぞ」と言い残して。
 これまで全てのお話を克明に記憶しておりますと、先週の感想のようにネガティブに捉えてしまいますが、良い塩梅に忘れますと単純に「格好良い!」と感じてしまうわけでございます(笑) 「侵略者」として汚名を着ることも厭わず、己の信念のために行動し死んで行く。CVに「福山潤」さんを起用したのも、某仮面の男の生き方を模した上でのスタッフの遊び心だったのだと思いました(笑)
 そして核心は「その方が格好いいだろ!」の浩一くんの一言でございます。物語が進むにしたがって主人公が成長するというフォーマットは、観ている側にとって分かり易く、そして心地よいものではございますが、実は作劇の便宜上あたかも成長しているように描かれているに過ぎなかったりする訳でございます。
 作る側としては「主人公」に作品世界を綺麗にまとめて欲しいですし、そうすることが主人公の務めでもありましょう。登場時から「世界を救う!」と明確な目的を持った主人公でしたらこの限りではございませんが、登場時は「馬鹿」だったり「ひ弱」だったり「穴掘りが得意なだけ」だったりした主人公が「世界を救う」ための説得力として「成長」していただくしか道がないからだと思うわけです。
 ですが物語内の時間経過が短い場合、これをやり遂げるには相当な力技が必要で、そうでありませんと視聴する側から嘲笑されてしまう訳でございます。「そんなに簡単に人は変わらないよ」と。
 中盤から終盤で浩一くんは随分と成長していたかのように(?)描かれていたかもしれませんが、「一変」するほど時間があったわけでもございませんでした。ここで彼に主人公然とした言葉を語らせたり振舞わせたりすることは簡単だったと思いますが、本作スタッフはその道は選びませんでした。
 この回の浩一くんを一言でいえば「馬鹿」 ただ番組開始直後の鬱屈したどうしようもない「馬鹿」ではありませんで、「愛すべき馬鹿」といったところでございます。この程度の変化が一番納得の行く「変化」でございましょう。
 あの頃(矢島や理沙子に守られていた子供時代も含めて)の浩一が憧れていた「正義の味方」とは「格好の良い」だけの存在ではないのだけれど、色々理屈を並べることはとても「格好の悪い」ことなのだということを知ったからこそ「その方が格好いいだろ!」と叫んだのでございましょう。
 「馬鹿には敵わない」と語った某カギ爪の男がおりましたが(笑) 馬鹿には物事の本質を瞬時に見抜く力が備わっているから敵いません。マキナ化した世界の胡散臭さを見抜いた浩一くんの最後の闘いが始まりました。いよいよ次回最終回でございます。…最終回前にしては長すぎる感想ですね(笑)