電脳コイル『ダイチ、発毛ス』

ヒゲ達のウワサによると紀元5550分、ヤサコ様が約束の地にお導きくださるそうです。
前回に続き直接本編には関係のないエピソード。大昔筒井康隆さんだったか星新一さんの短編で似たようなお話を読んだような記憶もあるのですが定かではありません。海外のSF小説だったかな?
ダイチたちがメタバグ探しの途中でどこかから拾ってしまったヒゲタイプのイリーガルが顔に住み着き、接触感染(空気感染みたいな気もしましたが)によってメガネをかけている人の間で増殖し、どんどん文明を進化させてしまうというお話。何故顔だけなのだろう、どうしてヒゲが生える部分だけなのだろうという疑問はスルーの方向で。その方がお話として面白いのですから、監督としてはそれでいいのです。
ストーリーの面白さは直接観てもらう以外伝えようがない作品ですが、こういうお話が半年続く番組だったらもっと視聴率は上がったと思います。こういう楽しくて切ないストーリは、往年の「少年ドラマシリーズ」を彷彿とさせてくれて大好きなのです。まあ、そういう路線もアリだったなと今でも思います。
細かい描写で楽しかったひとつは「発毛」に関すること。この年代には切実だったりしたことを思い出しました。修学旅行で風呂に入るときの緊張感は経験者なら心当たりがあるはずです。私はこの頃はまだ・・・ゲフンゲフン、男子はこういう話で盛り上がったのですが、女子はどうだったのでしょうね。永遠の謎です(笑)
今回は京子が良い味をだしていました。幼い京子がこれだけ懐くのですから、ダイチは良い奴なんですという監督の視線が優しくてうれしかったです。ファーストキスを奪われたダイチにとってはトラウマになるのでしょうがね。それに対してヤサコの変質者を見るような眼差しは、同世代の女子にはその良さが分かってもらえないという監督の恨みによる演出でしょうかしら?この辺の細かい描写がいちいち憎らしいほど(男子的に)的を射ています。
ストーリーの本筋の「模擬世界」については、SF資質のない私には迂闊な事を書きかねないので自粛しますが、楽しい絵作りばかりですからそのような資質がない人でも楽しめる様に仕上がっていました。星間戦争の件(くだり)は声を上げて笑ってしまいましたし。
ラストシーンで「争いのない平和な土地」を求めて旅立ったイリーガルの手紙が読み上げられますが、そんなものはこの世界のどこにもない事を知っているヤサコたちが夕暮れの土手に佇む描写は、どこか物悲しくて切ないカットでした。