蟲師 続章 第十二話『香る闇』

記憶の中に閉じ込められた男のお話。
久しぶりにやりきれないお話でございまして、同じ時間を延々と繰り返す事自体は不幸とは言えないのかもしれませんが、気付いてしまうことで不幸になってしまうという処がなんとも言えません。
一事は繰り返しから抜け出し見知らぬ風景を年老いた郁とともに過ごすことに幸せを感じたカオルでしたが、その「先」は幸せだけが待っているのではなく、当然不幸も訪れてしまうと。
その時カオルの下した決断はもう一度幸せな時間の輪の中に戻るというものでしたが、此処でカオルの視点から郁の視点に変わりまして、さてそうするとカオルはどこへ消えたのかという別の問題が発生してしまうのでございました。
カオルの「輪」はもう失くなってしまい、これからは郁の「輪」の中だけにしかカオルは存在しておらず、それは本物のカオルなのかどうか。
誰かにそのことを気づかされることがなければこの夫婦は幸せのままなのかもしれませんし、先に進めない、つまり未来がないという時点でとてつもない不幸の中にいるとも言えるでしょう。
幸せと不幸せが微妙なバランスの上で成り立っているのを私達は外から見ているだけで何も出来ない(当然ですけどね)、それ故この夫婦に切なさを感じてしまうのかもしれません。